それでは、誤った湿潤療法の具体例をいくつか挙げていきましょう。

①真夏に子供の虫刺されのひっかき傷にキズパワーパッドを貼って、とびひとなった

→そもそも虫刺されのひっかき傷は、傷としてではなく、湿疹として対処すべきなので、ステロイド外用剤

が第一選択。さらに、そもそも発汗量が多い子供に、真夏の暑い時期に、湿潤療法をすると、創傷被覆材

の下に汗が貯留し、二次感染を極めて併発しやすいので不適切。

②ひどく転んでできた擦り傷に、すぐにキズパワーパッドやサランラップで湿潤療法をして、かえって

ぐじゅぐじゅになって傷がいつまでたっても治らない

→受傷超早期の傷は浸出液が非常に多く、これに吸水効果のある創傷被覆材(ソーブサンなど)を

併用せずにいきなりキズパワーパッドやラップで覆ってしまうと、浸出液がどんどん溜まってしまい、

二次感染を併発する。私見ですが、受傷して2,3日までは、むしろ抗生剤軟膏+ガーゼ処置で


少し乾かして、それから湿潤療法とした方が、経過がきれいです。

③指を包丁でざっくり切って、キズパワーパッドで処置した

→誤りではないですが、縫合した方が傷の経過もよく、早く治ります。

④壊死組織を伴う褥瘡(とこずれ)に対してラップ療法を行い、壊死性筋膜炎を発症した

→勤務医時代に時々搬送されてきました。皮膚科・形成外科以外の医師が、褥瘡に何でもかんでも

ラップ療法を行った場合に起こり得る、最悪のケースです。感染創に対する湿潤療法は禁忌です。

結構、こういった事例をみかけます。

湿潤療法は、適切な創傷に対して、きちんと創部を観察しながら行うのであれば、非常に有用なの

ですが、観察できない、あるいは、観察できても判断ができない、あるいは、そもそも湿潤療法が

適応の創なのかがわからない、という場合には、リスキーとなり得ることを肝に銘じるべきと

思います。