今日は教訓的な1例。

症例:30代男性。

以前より項部(うなじ)に粉瘤があった。

都内の粉瘤くりぬき法を大々的に宣伝しているクリニックで

1年前にくりぬき法を受けた。最近同部位が徐々に増大してきたため

当院受診。

現症:

 

赤い部分は肥厚性瘢痕で、ここは術後からこのまま変化はなく、

大きくなってきたというのは、紫で囲んだ範囲です。この部位

に「しこり」を触れるようになってきた、とのことでした。

エコーを撮ると(長径方向)、

 

 

中央が赤い肥厚性瘢痕の部位で、右が、先ほどの「しこり」の

部分です。ここを22MHzでピンポイントで撮影(先程と直交する

方向)すると、

 

 

粉瘤の再発です。

 

この症例には、くりぬき法の問題点が詰まっています。

・まずうなじや背中のような真皮の厚い部位できちんと取り切れる

のか、という点。→結果、再発しています。

・この部位をオープントリートメントして、きれいな傷になるのか、

という点。→肥厚性瘢痕となります。同様の理由で、ボディーの

ほくろはCO2レーザーで取るべきではありません。通常通り切除縫合

した直線の傷跡の方がきれいです。

 

そもそもくりぬき法の宣伝の謳い文句は

短時間でできる

傷跡が小さい

ですが、通常の切除縫合も、よほど大きい粉瘤でなければ、手術に

熟練した術者であれば10分程度でできますので、「短時間でできる」

点の強調はいかがなものかと考えます。また、くりぬき法の傷跡の長さ

が「小さい」としても、このようにふくれた瘢痕と、切除縫合の

一直線の傷とで、どちらが目立つのは自明の理でしょう。

さらに、切除縫合では顔は5日程度、体は1週間から長くて2週間程度

で抜糸して創管理は不要となりますが、くりぬき法は上皮化に時間

がかかるため、創管理の時間は切除縫合と比べて遥かに長くなります。

そのため、僕の見解としては、くりぬき法が適応になるのは、くりぬき

法による瘢痕が通常の切除縫合による瘢痕と比べて整容的に優れて

いることのメリットが、くりぬき法による再発のリスクのデメリット

を上回る、と考えられるケースに限定されると考えます。さらに言う

ならば、若年者の顔面の真正面から見たときに目立つ頬の大きい粉瘤

のみが、くりぬき法の唯一の適応と思います。(この場合は、くりぬき

法で再発したとしても最初より小さいうちに切除縫合してしまえば、

最初から大きく切るよりは傷の長さが短くて済む、という考えです。)

そのため当院では粉瘤の手術は原則として切除縫合で行っており、

くりぬき法を選択するケースは上記のごとく非常に限定的のため、

年数件程度となっています。