今日はかなり診断に苦慮した症例です。

症例:30代、女性

現病歴:1月頃より、生理前に37度程度の微熱、頚部・両手に痒み・紅斑が出現し、

しばらくすると色素沈着を残さず消退するエピソードが2回あり、他院(複数件)を

受診し、湿疹や凍瘡といわれていた。今回、これまでよりもひどく症状が出現したため

3月中旬に当院を初診した。

現症:頚部から上胸部にかけて痒みの強い浮腫性紅斑が多発集蔟し局面を形成。

両手指全指に全周性に落屑性紅斑が存在し、一部には紫斑を伴う。左手拇指球部

にはやはり痒みの強い浮腫性紅斑が存在する。NFBや爪囲紅斑はない。体温37度。

生理前の頓服薬などなし。

さて、困りました。凍瘡様の分布を示す紅斑・紫斑の存在からは、膠原病や血管炎を

鑑別する必要があると考え、なかでも、浮腫性紅斑も存在することから蕁麻疹様血管炎

ないしはいわゆる蕁麻疹様紅斑か、あるいは微熱ではあるもののSweetも鑑別か、

はたまた生理前に出現することからは月経疹も鑑別する必要がある・・・などと考えました。

まず症状の強い拇指球部から生検および各種疾患鑑別目的に血液・尿検査を実施

しました。それと同時にPSL20mg/d(0.5mg/kg)内服を開始しました。

まず5日後、一般血算・生化に異常なく症状は著明改善しておりPSL15mg/dに減量。

(WBC,Neut,CRPは正常範囲内でSweetは考えにくい。Eosも正常範囲。)

その5日後、症状はほぼ軽快しており、この時点で抗核抗体やさまざまな血管炎の

自己抗体も陰性が判明。ここで病理組織は第1報でSpongiotic dermatitisであり、臨床

診断から血管炎を更に精査するため深切り標本を作成中で結果待ちの状態。PSLを

10mg/dに減量し、深切りの結果を待ち、5日目の再診を指示しました。

が、その2日後に症状がかなり再燃して再診。

この時点で、深切り切片の結果もSpongiotic dermatitisであることが判明しており、

ようやく「ひょっとして・・・」とパッチテストの予定を組むこととしました。パッチテストは、

化粧品類や植物(シクラメンを育てているがそんなに触っていないとのこと)など付着

する可能性のあるもの一式を持参、および、ジャパニーズスタンダードアレルゲンにて

実施しました。PSLは15mg/dに戻しました。(PSL20mg/dまではパッチテストに影響しま

せん。)

すると、ジャパニーズスタンダードアレルゲンのニッケルおよびプリミンに陽性反応が

出ました。

プリミン・・・サクラソウのアレルゲンです。シクラメンはサクラソウ科なんですね。これか!、

と診断に至りました。ただここで不思議なのはシクラメンのパッチテストもあわせて実施

していたんですがこれには出ていなかったんです。実はシクラメンの抗原性は、その汁に

あり、患者さんがシクラメンの花のみを持参して葉を持参するのを忘れていたため、花では

パッチテスト陰性になっていたんですね。そこでシクラメンを触らないように指示し、本日

再診としたところ、症状は概ね軽快しており、さらに核心となる情報が得られました。

「よくよく考えてみたら、毎回症状がぶり返す直前に実家に帰っていて、その時、サクラソウ

を触ってました。」とのこと。今回PSL内服中に再燃した日も、実家に戻った日であった

とのこと。ちなみに、生理に一致して皮疹が出現したのは、たまたまそのタイミング(つまりは

1ヶ月おき)で実家に帰っていたためでした。

ということで、サクラソウ皮膚炎と診断しました。

間欠的なサクラソウ科植物の接触および、生理前の再燃、という2つの要素が、自験例の

診断を難しくしました。

しかし振り返ってみると、この季節の難治性の皮膚炎に関しては、サクラソウ皮膚炎が鑑別

であることを考えれば、初診時に聞いておくべきだったとも反省します。

患者さんに、「原因がわかってようやくすっきりしました」とお喜びいただけたのが、幸い

です。